第1回女性向け勉強会 レポート

2015年6月27日、第1回女性向け勉強会を開催させていただきました。

講義の内容は、「基礎知識編」「プロット制作編」「実技編」の3編です。

 

■基礎知識編〈講師:浦井アンナ〉


 シナリオライターと小説家の違いから始まり、仕事の内容、働き方(社員・フリー)、執筆以外に注意すべきことなどについてご解説いただきました。

 

 経験者の方には当然の認識だと思いますが、未経験者の方は「シナリオライターは依頼された話を作るのが仕事であって、好き勝手に話を作っていいものではない」という点を踏まえて、今後の進路をご検討いただければと思います。

 

 また、近年では女性向け業界に携わる方も増え、マナーの低下が問題視されているというお話もありました。どの業界でもそうですが、報告、確認、連絡を徹底して、トラブルを未然に防げるようにしたいですね。

 

 志望者・未経験者の方へ向けた講義ということで、経験者の方には大半が既知の内容だと思われましたが、仕事を受ける前に確認すべき事、交わすべき契約など、初心に戻る意味でもご興味持たれた方が多かったようです。

 

■プロット制作編〈講師:柴原みちる〉


 プロット制作の基本、起承転結の意識、実際にプロットを作る際の注意などをもとに、応用としてプロットの修正方法、修正する際のクライアントとの交渉方法などをお話していただきました。


 センスや感性が中心となる執筆作業と違い、プロットは論理的、客観的思考が求められる作業でもあるため、参加者の中には苦手意識を持たれている方も多かったようです。実際、女性向け業界にはプロットが書けないライターも多いそうなので、他と一線を画す為にも克服しておきたい所ですね。


 ポイントとして、プロットは「物語のイメージを複数の人間で共有するためのツールでもある」というお話がありました。単にあらすじを書いただけでは自分用のメモにしかなりませんが、物語のテーマ、甘いシーンの要点などを簡潔にまとめることで、プロットはクライアント・ライター共有して使える資料になります。講義内でいくつかノベルタイプ乙女ゲームの形式をサンプルとしてご用意させていただきましたが、自分なりにアレンジして、より良いプロットを制作していただければ幸いです。

 

■実技編〈講師:ちゃい〉


 ちゃいさん自身の仕事スタイルをもとに、フリーライターが仕事を受けてから執筆を終えるまでを、実例をまじえてお話しいただきました。


 あくまでちゃいさんの持論というお話でしたが、執筆よりもまずクライアントと直接会い、先方の好みを把握することに重きを置くという点は、経験者であれば共感できる話ではないでしょうか。特に女性向けでは、クライアントの趣味嗜好が作品に反映されている場合が多く、実際に会って内に秘めた思いを聞いておくと、後の修正作業が少なくて済むとのお話もありました。また、親交を深めることでクライアントとのパイプを太くできるという点も、フリーで活動される方には大切な事かもしれません。


 ほかにも、オリジナルドラマCDの制作現場の声として、現在は性表現が求められること、執筆の上でのNGなどのお話もいただきました。ドラマCDも女性向け業界の大きな柱となっているジャンルなので、ぜひとも押さえておきたい所です。

 

 

 ちなみに、講義の始め行なったアイディア出しのゲームでは、以下のような答えが参加者の皆様から寄せられました。

 

問:秋葉くん(架空キャラ・眼鏡の男子高校生)と仲良くなるために
  彼の何を知りたいですか?

  1分以内で思いつくだけ答えてください
                      (ご回答人数:110名)
・趣味:63票
・所属関連(部活、委員会など):59票
・家族関連(構成、環境など):56票
・食べ物関連(好き嫌い、こだわりなど):52票
・身体的特徴関連(身長、体重など):42票
・勉強関連(得意、不得意など):32票
・長所関連(特技、スキルなど):27票
・眼鏡関連(デザインの好み、視力など):27票
・女性関連(好きなタイプなど):25票
・住居関連(住所、部屋の趣味など):25票

 

 やはり、趣味や所属、家族構成など、一般的な内容が多く挙がる結果となりました。ここからわかる事は、人間が知りたいと思う物は意外と単純な事であるということでしょうか。なかには、「下着の好み」「ゲームの趣味」といった突飛な物もありましたが、基本的には、多くの人間が知りたいと思うシンプルなネタを、どう面白く料理するかがライターの腕の見せ所と言えるでしょう。
 
 なお、アイディア出しゲームで行なった時間を短く区切る手法は、実際のミーティングで使われる事もあるそうです。集中力を高めるのに有効な手なので、煮詰まった時の参考にしたいですね。講義内では1分間で6個を目安としていましたが、参加者の平均は約9個、最高で17個も出された方がおり、参加者の熱意に驚かされました。


■座談会〈講師:柴原、浦井、ちゃい〉

 座談会で講師3人が最初に取り上げたのはこの業界に入った経緯。3人とも乙女ゲームの制作を目指してこの業界に入ったわけではないことから、会社にした経緯や企業のメリット・デメリットなど話されました。

 次は作業費の話題に。クライアントや作業内容によって値段は様々としながらも、講師3人は聞いたことのある女性向け業界での最低単価と、おおよその平均単価、そして高いと予測される単価の目安の値段をお話されました。

 参加者にとっても一番興味がある話題だったようで「作業費が上がらない場合、交渉してもいいか」「安価な案件を受けることについてどう思うか」など多くの質問が出ました。講師3人は「安価な案件は請け負った人が納得していれば良い」としながらも「業界全体の単価が上がってくれるのは理想」と語り、「できるなら交渉はすべき」といった話をされました。(※こちらについては勉強会後、企業側からのご意見をいただいております)

 ほか、テーマが告知やSNSなどのマナーに及んだ際は「どんな形にせよクライアントに確認を取ってから」と講師3人が話したところ、やはり様々な質問が出ました。(※こちらについても勉強会後、企業側からのご意見をいただいております)

 その後も、いただいた様々なテーマを取り上げたのち、講師陣は「女性向け業界は若いながらも、そろそろ飽和状態になりつつある」という危機感を示しております。続けて「少しでも女性向けに関わるライターの質の向上と、業界発展の役立てれば」と、この勉強会を開いた心情を語り、本会を締めくくられました。

 参加者からも「答えにくいことにも踏み込んで答えてもらえて良かった」「もっと長く、いろいろな質問に答えて欲しかった」などの声が多く寄せられ、満足度の高い座談会となったようです。

 

■勉強会後のご意見・ご感想

 最後に、勉強会に参加された企業様やディレクター・プラインナー側から、ライターに伝えたいことという形でご意見いただいた一部のものと、アンケートにご協力頂いた皆様の評価をまとめさせていただきます。企業様のものは、今後、ライター活動を続けるにあたり、ご参考にしていただければ幸いです。

 

【クライアント側からの意見】

●執筆者の公表・SNS関連について

・告知には好意的。ただ、勉強会での話のように確認はしてほしい
・告知の内容を確認させてもらって問題なければOK
・弊社のような出来たての会社は、命を吹き込んで頂いたと感謝万雷の思いをもって告知していただいている
・開発側としては告知や経歴掲載に許可したいが、上層部の決定により許可できない。そういう会社もあるので理解してほしい
・SNS(Twitterなど)で許可なく勝手に告知する方が多いので、必ず企業側に確認をとってほしい
・プランナーやディレクターなど、複数の人の手が加わって作られている物なので、ライターだけ特別に公表を許可するのは難しい
・当社は最終稿をディレクターが確認して仕上げる形式をとっており、大幅な変更がかかる場合が多いため公表はご遠慮いただいている
・複数のライターに依頼した場合、「なぜ◯◯ルートはこの人が書いていないのか」「◯◯ルートは誰が書いているのか」など、ユーザー様の問い合わせが増えてしまう可能性がある。トラブルを未然に防ぐために、公表はご遠慮いただいている
・制作陣の思惑とは別のところで作品語りやユーザー様と話す方がおり、今後の企画に影響が出てしまう場合がある。個別で公表OK・NGを分ける訳にもいかず、当社では全面NGという形にさせていただいている
・過去に無許可で告知をした女性ライターがおり、その影響で関係者全員、掲載が全面禁止になったことがあった

 講義内でも触れられましたが、作者主導の小説と違い、この業界の仕事は多くの人が制作に関わっています。自分の希望ばかりを優先せず、一緒に制作しているのだという意識を持つように心がけたいものです。
 座談会では確認さえ取れば好意的なクライアントが多いのではないか、としましたが、過去に起きたトラブルの影響や、会社の方針として公表NGといった場合もあるようです。
 もちろん告知OKというクライアントもおられますので、勝手な判断で動かず、必ず確認を取るようにしましょう。告知や経歴の掲載がNGという会社を、少しでも減らすようにしたいものです。

 

●金銭面、仕事の依頼について

・ソーシャルゲーム業界だと1文字2〜3円基準が最近の主流で、それ以上だと難しい状況だと感じている
・キャリアと実績があれば交渉に応じやすいが、修正が多い方、取引期間がまだ浅い方だと、1KB1000円でも現実的に厳しい
・知らない方、実力がわからない方にはどうしても発注しにくい。「少量をお試し価格で」という場合ならあるかもしれず、そこで評価が高ければ次に繋がりやすい
・過去に、こちらの指示書を読まずに勝手な書式で納品された女性ライターがいた。内容も原稿が真っ赤になるレベルで、結局すべてを書き直すことになったにもかかわらず、実績を載せさせてほしいとの話もあった。赤を入れるのにも内部的なコストがかかるので、料金が高くても確実に信頼できる方にお願いすることを選んでいる
・乙女ゲームは完成後の作品にライター以外の手が加わっていることが多く、経歴に挙げられても、どの程度自分の力で書いたのかわからないものと認識している。このため、女性向けコンテンツ以外の仕事が未経験の方、あるいは経験が極めて少ない方には基本的にお仕事をお願いしていない
・初心者や経験の浅い方に依頼することはなく、経験者でも経歴はあまりアテにしていない
・経験は気にしていないが、作業の内容や評価は気にする。それによって値段の交渉に応じるか決める
・当社ではライターのスキルや実績にあわせてランクのようなものが決まっており、それ以外は一律同額になっている。交渉は相手によって応じることもある
・担当として値段を上げたいと考えても、予算などによって上司の許可が降りないこともある。相談や交渉はいいが、応じられないことのほうが多い
・値段の交渉に応じられないとすれば、ライターか予算の問題だと思う
・未経験や初心者にもお願いすることも多く、依頼をきちんとこなしてくれれば交渉にも応じる

 こちらの意見は、座談会内で参加者から金銭面の話が多かったために寄せられたものだと思います。座談会内では交渉すべきという話を中心にしましたが、交渉をするにしても、自分の実力が伴っていなければ当然反感を買ってしまいます。クライアントの求めるレベル以上の仕事ができているか、修正が多くないか、そもそも実力を上げる努力をしているか、今一度自分を見つめ直してから交渉すると良いかもしれません。
 また、なかには女性向けジャンル以外での経歴を見て判断しているとの声もありました。女性向けだけにこだわらず、幅広い仕事を受けてライターとしての実力を上げておきたいところです。

 

●契約関連

・他社の権利侵害(パクり)、納期遅れなどでライター側に責任が発生する場合もあるので、ペナルティーについてもよく確認しておいてほしい
・小さな会社や、新しい会社の場合、契約書を作る習慣がないこともある。期間、物量、対価については、メールでも良いので文章として取り交わしておくと良い
・支払日についても30日以内になっているかは確認したほうが良い。下請法の60日を「営業日で60日」だと思っている企業はいまだあるようだ

 契約についていただいた意見は、不慣れなライターを心配するものが多かったようです。ただし、プロの仕事であれば当然の内容かと思いますので、今まで意識していなかった方はご注意ください。

 

●その他

・乙女ゲームが好きという人に多い印象だが、ミーハー気分でライターをされている方には仕事を振れない。仕事という姿勢で取り組んでほしい
・乙女ゲームが好きというライターさんのなかに、「このほうが面白い」「このほうが人気が出る」と言って希望した通りに書いてくれない方が何人かいた
・「そのライターに発注するのが会社利益につながる」という名目で会社に企画を通しているので、プロ意識の高い方でないと取引は難しい
・一部だとは思うが、仕事を途中放棄したうえでその作品を実績として公表している女性ライターもいるため、どうしても信用されにくい側面があるのではないかと思う

 過去の事案から、女性向けジャンルを手がけるライターのプロ意識の低さ心配する意見も多く寄せられました。もちろん一部の人間の出来事ではあると思いますが、こういった事が重なると、女性向けジャンルを手がけているというだけで、敬遠されることになりかねません。自分もこの業界を支える一人であるという意識を持って、仕事に臨んでいただきたいです。

 

【参加者のご感想】

● 勉強会はいかがでしたか? ※複数回答可
(ご回答人数:53名 ※2015年7月1日現在)

・大変良かった・有意義だった (45票)
・勉強になった (43票)
・もっと掘り下げたものが聞きたかった (27票)
・もっと長くしてほしかった (4票)
・もっと短くしてほしかった (1票)
・まあまあ良かった (0票)
・普通だった (1票)
・期待していたほどではなかった (0票)
・つまらなかった (0票)
・何も勉強にならなかった(0票)

 参加者全体からいただいたご意見につきまして、「良かった」「勉強になった」と思ってくださる方が多く、本当にありがたい限りです。今回は第1回目ということもあり、未経験者から経験者まで幅広く使える内容を、という形で企画したため、基本的な話が多くなってしまいましたが、「もっと掘り下げたものが聞きたい」という声も多くいただきました。アンケートの中には座談会や交流会の時間を長くして欲しかったという意見も目立ちました。それぞれ今後に生かしたいと思っております。
 ご来場いただき、誠にありがとうございました。
 

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